前回の記事では、Google広告がどのようなロジックで表示され、順位が決まるのか、その「オークションの裏側」について解説しました。
仕組みがわかると、すぐにでもキーワードを登録して広告を出したくなるかもしれません。しかし、ここで焦ってはいけません。
家を建てるときに、いきなり柱を立て始める大工さんがいないように、Google広告にも「設計図」が必要です。この設計図にあたるのが、今回解説する【アカウント構造】です。
この構造(箱の分け方)を間違えてしまうと、どんなに良い広告文を書いても、どんなに予算をかけても、成果が出ないばかりか、無駄な広告費を垂れ流すことになってしまいます。
今回は、初心者の方が最も悩みやすいこの「アカウント構造」について、学校や組織図などの身近な例えを用いながら、その本質をざっくり、かつ深く理解できるように解説していきます。
Google広告は「4つの箱」でできている
まず、Google広告の全体像をイメージすることから始めましょう。
Google広告は、大きな箱の中に中くらいの箱があり、その中に小さな箱がある…という「マトリョーシカ」や「重箱」のような階層構造になっています。
具体的には、以下の4つの階層で構成されています。
- アカウント(一番大きな箱)
- キャンペーン(予算や地域を決める箱)
- 広告グループ(テーマごとの小分けの箱)
- キーワード・広告(中身)
私たちが普段、管理画面で見ているのは、これらの箱を上から覗き込んだり、横から見たりしている状態です。
この階層構造を理解するために、最もわかりやすい例えである「学校」に置き換えて見ていきましょう。
アカウント構造を「学校」に例えて理解する
Google広告の運用は、一つの「学校」を経営するようなものです。
それぞれの階層が、学校のどの機能に当てはまるのかを見ていくと、役割がスッキリと頭に入ります。
1. アカウント = 「学校そのもの(経営母体)」
一番上の階層である【アカウント】は、学校そのものです。
「〇〇学園」という組織全体を指します。
ここでは、以下のような「大元の情報」を管理します。
学校の住所(会社情報)
金庫・経理担当(支払い情報の登録)
校長先生や理事長(ユーザー権限の管理)
基本的に、1つの企業につき1つのアカウントを作成します。
「株式会社A」という会社が、「英会話スクール」と「プログラミング教室」の2つの事業をやっている場合でも、基本的には1つのアカウント(学校)の中で管理し、後述する「キャンペーン」で出し分けます。
※あまりに事業規模が大きく、部署ごとに財布(請求先)を完全に分けたい場合などはアカウントを複数作ることもありますが、原則は「1社1アカウント」と考えて問題ありません。
2. キャンペーン = 「学年・コース」

アカウントの中に作られるのが【キャンペーン】です。
これは学校で言うところの「学年」や「コース(普通科・理数科)」に当たります。
このキャンペーンという階層が、Google広告運用において【最も重要】と言っても過言ではありません。なぜなら、ここで「お金」と「ターゲット」の大枠を決めるからです。
キャンペーンで決めること
予算(この学年にいくら使うか)
配信地域(修学旅行の行き先はどこか)
入札戦略(どのような方針で生徒を指導するか)
例えば、あなたが「大阪にある学習塾」の広告を出したいとします。
「中学生コース」と「高校生コース」がある場合、これらを一つのキャンペーンにまとめてしまうとどうなるでしょうか?
もし「高校生コース」の方が人気が出てクリックが集中した場合、予算のほとんどを高校生コースが使い果たしてしまい、中学生コースの広告が全く出ないという事態が起きます。
また、「大阪校」と「東京校」がある場合、それぞれの地域に住んでいる人にだけ広告を出したいはずです。
このように、「予算(財布)」や「地域」を分けたい場合は、必ずキャンペーンを分ける必要があります。
3. 広告グループ = 「クラス」
キャンペーン(学年)の中にあるのが【広告グループ】です。
これは学校の「クラス(1組、2組…)」のようなものです。
クラス分けの役割は、「似たもの同士を集めて整理すること」です。
例えば、「高校生コース(キャンペーン)」の中に、全ての教科の先生と生徒をごちゃ混ぜに入れたら大混乱しますよね。
数学の質問をしたい生徒の目の前に、英語の先生が現れたら困ります。
だから、クラス分けをします。
広告グループA:数学クラス
広告グループB:英語クラス
こうすることで、後述する「キーワード(生徒の悩み)」と「広告(先生の答え)」のマッチング精度を高めることができます。
4. キーワード・広告 = 「生徒・先生」
一番下の階層にあるのが【キーワード】と【広告】です。
キーワード = 生徒(ユーザーの検索語句・悩み)
広告 = 先生(その悩みに答えるメッセージ・看板)
広告グループ(クラス)という教室の中で、生徒(キーワード)が手を挙げたとき、適切な先生(広告)が答える。この対話が行われる現場がここです。
もし広告グループの分け方が雑だと、
生徒:「方程式の解き方がわかりません!」(キーワード)
先生:「この英単語帳がおすすめだよ!」(広告)
という、トンチンカンな会話が生まれてしまいます。
これを防ぐために、上位の階層である広告グループ、キャンペーン、アカウントが存在し、それぞれが役割分担をしているのです。
なぜ構造を分ける必要があるのか?

ここまで読んで、「なんだか面倒くさそうだな。全部ひとつの箱に入れてしまえば楽なのに」と思った方もいるかもしれません。
しかし、構造を整理することには、運用成果に直結する【3つの明確な理由】があります。
理由1:予算をコントロールするため(キャンペーンの役割)
ビジネスでは、注力したい商品と、そうでない商品があるはずです。
「利益率の高い商品A」には月10万円使い、「認知用の商品B」には月3万円に抑えたい。
Google広告では、日予算の設定は【キャンペーン単位】でしかできません。
もし全部まとめて1つのキャンペーンにしてしまうと、GoogleのAIは「反応が良い(クリックされやすい)広告」に勝手に予算を寄せてしまいます。
結果として、本当に売りたい商品Aの広告が出ず、商品Bばかりが表示されて予算終了、という悲劇が起きます。
お財布を分けたいなら、キャンペーンを分ける。
これは鉄則です。
理由2:品質スコアを高めるため(広告グループの役割)
前回の記事で「品質スコア」がクリック単価を下げる鍵だとお話ししました。
品質スコアを決定する重要な要素の一つが【広告の関連性】です。
ユーザーが「赤い スニーカー」と検索したなら、広告文にも「赤いスニーカー」という言葉が入っているべきです。
ユーザーが「ランニング シューズ」と検索したなら、広告文は「ランニングシューズ」であるべきです。
これらをすべて同じ広告グループに入れてしまうと、
検索:「赤い スニーカー」
表示:「最新のランニングシューズ入荷」
というズレが生じます。これではGoogleから「関連性が低い」と判断され、品質スコアが下がり、クリック単価が高騰します。
「スニーカーのグループ」と「ランニングシューズのグループ」を分けておけば、それぞれの検索キーワードにぴったりの広告を表示させることができます。
つまり、アカウント構造を整理することは、コスト削減に直結するのです。
理由3:分析と改善をしやすくするため
構造が整理されていると、健康診断(分析)が容易になります。
「どの地域で成果が出ているのか?」
「どの商品カテゴリが足を引っ張っているのか?」
これらが箱ごとに整理されていれば、一目で原因がわかります。ごちゃ混ぜの「おもちゃ箱」状態では、何が良くて何が悪いのか、プロでも分析が困難です。
良いアカウント構造を作るための「思考手順」

では、実際にゼロからアカウント構造を作るとき、どのような手順で考えればよいのでしょうか。
プロが実践している思考フローを共有します。
ステップ1:キャンペーンを何で分けるか決める
まずは大きな枠組みから決めます。判断基準は以下の通りです。
予算を分けたいか?
(例:主力商品用と、テスト商品用で予算を変えたい)
配信地域が違うか?
(例:大阪支店と東京支店で別の広告を出したい)
配信目的が違うか?
(例:認知拡大のためのディスプレイ広告と、獲得のための検索広告)
これらに「YES」がある場合は、キャンペーンを分けます。
ステップ2:広告グループを「テーマ」で分ける
次に、キャンペーンの中をどう切り分けるか考えます。
ここでのコツは【1つの広告グループ = 1つの検索意図】にすることです。
例えば「リフォーム会社」の場合、「キッチンリフォーム」と「お風呂リフォーム」は別の広告グループにします。
なぜなら、キッチンを直したい人は「システムキッチン」や「食洗機」という言葉に反応し、お風呂を直したい人は「ユニットバス」や「浴室乾燥」に反応するからです。
これらを混ぜると、広告文がぼやけてしまい、誰にも刺さらなくなります。
ステップ3:キーワードと広告を入れる
箱ができたら、最後に中身を入れます。
「キッチン」のグループにはキッチン関連のキーワードと広告文だけを入れる。「お風呂」のグループにはお風呂関連だけを入れる。
このように整理整頓されていれば、GoogleのAIも学習がしやすく、最適化が早く進みます。
よくある失敗例:アカウント構造の落とし穴
初心者が陥りやすい、構造上のミスをいくつか紹介します。反面教師として参考にしてください。
失敗例1:キャンペーンの細分化しすぎ(1キーワード1キャンペーン病)
丁寧にやりたいあまり、キーワードごとにキャンペーンを分けてしまうケースです。
昔のSEOや広告手法では良しとされた時期もありましたが、現在のGoogle広告は【AIによる自動化】が主流です。
AIはデータを食べて賢くなります。箱を細かく分けすぎると、一つの箱に溜まるデータが少なくなり、AIが学習できずにパフォーマンスが低下します。
意味もなく細かく分けるのは避け、可能な限りデータが集約される構造(シンプルな構造)を目指しましょう。
これを専門用語で「hagakure(ハガクレ)構造」と呼んだりします。
失敗例2:広告グループの「その他」ボックス化
分類するのが面倒になり、とりあえず「その他」という広告グループを作って、雑多なキーワードを放り込んでしまうケースです。
これは前述の通り、品質スコアを下げる最大の要因になります。
面倒でも、ユーザーの検索意図(悩み)ごとにグループを分ける手間を惜しまないでください。
失敗例3:ディスプレイ広告と検索広告を混ぜる
キャンペーン設定には「ネットワーク」という項目があり、検索ネットワーク(リスティング)とディスプレイネットワーク(バナー)を同時に配信する設定が可能です。
しかし、これは推奨しません。
検索する人と、サイトを見ている人では、心理状態も行動も全く違います。
これらを混ぜると、効果測定ができなくなり、予算配分もAI任せでコントロール不能になります。
「検索」と「ディスプレイ」は、必ずキャンペーンレベルで分けましょう。
具体的な構築例:フィットネスジムの場合
最後に、理解を深めるために架空の「ABCジム」のアカウント構造を作ってみましょう。
前提条件
店舗:大阪の梅田と難波に2店舗
特徴:ダイエットコースと、筋力アップコースがある
予算:梅田店に力を入れたい
この場合の理想的な構造案は以下のようになります。
キャンペーン1:検索_梅田店(予算多め)
目的:梅田エリアのユーザー獲得
地域設定:梅田周辺 半径5km
広告グループA:ダイエット
キーワード:「梅田 ダイエット ジム」「痩身 エステ 違い」など
広告文:「梅田駅徒歩5分でマイナス10kgを目指すなら」
広告グループB:筋力アップ
キーワード:「梅田 筋トレ」「ベンチプレス ジム」など
広告文:「24時間使えるフリーウェイトエリア完備。ABCジム梅田」
広告グループC:指名(ブランド名)
キーワード:「ABCジム」「ABCフィットネス」など
広告文:「大阪で人気のABCジム。まずは無料体験へ」
キャンペーン2:検索_難波店(予算少なめ)
目的:難波エリアのユーザー獲得
地域設定:難波周辺 半径5km
広告グループA:ダイエット
(難波店用のキーワードと広告文)
広告グループB:筋力アップ
(難波店用のキーワードと広告文)
このように整理されていれば、
「今月は梅田店の入会キャンペーンをするから、梅田キャンペーンの予算を増やそう」
「難波店のダイエットコースの反応が悪いから、広告文を変えてみよう」
といった打ち手が、迷うことなく打てるようになります。
箱を用意したら、次は「中身」を選ぼう
Google広告のアカウント構造について、イメージは掴めたでしょうか?
アカウント = 学校(管理の母体)
キャンペーン = 学年(予算と地域の財布)
広告グループ = クラス(テーマごとの部屋)
キーワード・広告 = 生徒・先生(中身)
この構造を正しく設計することは、広告運用における「土台作り」です。
土台がしっかりしていれば、その上に積み上げる施策も安定して効果を発揮します。
さて、箱(構造)の準備ができたら、次はいよいよその箱に入れる「中身」、つまり【キーワード】を選定する作業に入ります。
しかし、キーワード選びは単に「思いついた言葉を登録すればいい」というものではありません。
「ジム」と登録したつもりが、「ジム 経営」や「ジム バイト」という求職者にまで広告が出てしまい、無駄なお金を使ってしまう…なんてことが頻繁に起こります。
Google広告には、こうした意図しない表示を防ぎ、狙ったユーザーだけにピンポイントで広告を出すための【マッチタイプ】という重要な機能があります。
次の記事では、無駄なクリックを極限まで減らし、見込み客だけを集めるための「キーワードの選び方」と「マッチタイプの魔法」について解説します。
AI時代だからこそ知っておくべき、キーワード選定の極意を学びましょう。
[次の記事を読む:キーワードとマッチタイプ:広告を表示させる言葉を選ぼう]

コメント